平田薬師奉賛会会報 絆


信じる力

 新しい年を迎え、一年が飛ぶように過ぎ去り、悲喜交々諸行無常を感じる歳になりました。

 健康で仕事に生き甲斐を持ち、社会で活躍されている人には、このような心境は関係のないことでしょう。

 しかし、仕事も退き、子どもも独立するような歳になり、特に趣味もなく仕事一筋だった人、ましてや病気を一つ二つ抱える人、最愛の配偶者を失った人、高齢でありながら経済的に苦しんでいる人であれば、どうでしょう。また、働き盛りなのに、重い病気や事故により苦しく不自由な身となった人、仕事もなく大きな負債を抱えた人はどうでしょう。これからの人生、どう生きていこうかと考えないことはないはずです。そのような人は少ないもののわたしたちの周りに必ずいらっしゃいます。そしてそのような状況に自分がいつなったとしても、おかしくないのです。人生は悲喜交々諸行無常ですから。

 

 これからお話するのは、かなり進行したガンを患い、その闘病の最中に最愛の夫を亡くした女性のお話です。苦境に立たされている人は勿論、順風満帆な人であっても、信ずれば素晴らしい力を、天はわたしたちの心や身体に与えてくれることを教えられます。

「般若心経を唱えてみてください。心から念じると、かならず安らに穏やかになれるから。」

とお坊さんに勧められ、わたしは毎朝、夫の位牌の前で心経を数回唱えました。位牌の前に座っていると悲しくもないのに涙が流れ落ちます。気がつくと午後になっているのです。その場でずっと座って…。そのような毎日を何年も過ごしました。

 抗ガン剤の副作用で髪が抜けたわたしを見て、「黒髪は女の命と言うじゃないか。お前が不憫だ。」と言って自分も頭を丸めてしまった夫が…スポーツマンタイプでとても死ぬとは思えない、そんな夫が…わずか4日の入院で急逝したのです。死ぬはずがない夫が死に、生きるはずがないわたしが生きている。

 

 かつて夫が「お前が元気になったら四国八十八か所へ一緒に行こうな。ガンを患った女優の左幸子さんもお遍路で廻ったそうだ。」と言っていたことを、あるとき思い出し、夫の鎮魂のためにも巡礼に出なければならない観念に駆られました。家族や周囲が猛反対をする中、死を覚悟でわたしは旅に出かけたのです。

 ガンの治療中でもあり、しかも足には帯状疱疹が出て、とても歩ける状態でなかったけど不思議と歩くほどに足が軽くなっていくのです。巡礼が終わったころには足は治っていました。

 清水寺の大西良慶貫主が「満足とは足を満たすことだよ」と言われましたが、そのとおりでした。元気になるからこそお遍路さんが今も絶えないことがわかります。

 その後、この方は自らの体験をもとに、エミール・クエの言葉をモットーにしてガン患者の会を自ら立ち上げ、多くの人々に力と希望をあたえておられます。彼女は言います。

「どうか良くなることを心から信じ続けてください。信じればかならず良くなります。

ガンは治る病気です。けれど軽んじてはいけません。そして非日常の生活をしてください。

非日常とは旅行などで自分を明るく楽しませることです。そうすればかならず良くなります。」

 

 「今日から毎日 あらゆる点で いっそう良くなる

   ますます良くなる ぐんぐん良くなる かならず良くなる

    ぜったい良くなる きっと良くなる 良くなるしかない」(エミール・クエ)

NHKラジオ深夜便「がんの仲間と支えあう(広野光子)より

 

【 内容はラジオ深夜便を聞いて紹介したものです。そのため

聞き違い等不正確な部分があることを、おことわりします。】